1. ベテランコンサルタントの一言に、違和感を覚えた
「チャットやオンラインで社内のIT相談を受ける仕組みなんて、お客様には無理だよ」
あるベテランのコンサルタントが放ったこの言葉に、私は強い違和感を覚えました。長年現場を見てきた方の言葉には重みがありますが、それでも“できない前提”で話す姿勢には、引っかかるものがあったのです。
2. IT人材を雇えないという、現実的な苦しみ
実際に私が支援している中小企業の多くは、ITに関する悩みを常に抱えています。
- 「パソコンの調子が悪くても、誰に聞けばいいかわからない」
- 「取引先が新しいツールを使い始めたけど、社内で対応できる人がいない」
- 「ベンダーと話すとき、何を言っているか半分もわからない」
その一方で、ITに詳しい人材を雇える余裕がないのが現実です。採用しても定着しづらく、社内にナレッジも蓄積されにくい──そんな構造的な課題に、多くの企業が直面しています。
3. 私が見出した答え ― ITサポートに寄せられる相談は「急ぎではない」が多い
こうした現状に対して、私は「外部からITサポートの支援を提供する」という仕組みを模索し始めました。
これまでの経験から、社内で対応できるものは社内で解決し、それでも解決できない技術的な内容の対応に困っていることはわかっていました。問い合わせの多くは「今すぐどうにかしなければ業務が止まる」という緊急性の高いものではなく、「困ってはいるけれど、少し待てばなんとかなる」「手を動かせば何とか対応できている」という内容が中心です。
たとえば、
- 「新しいPCでのメール設定がよくわからない」
- 「請求書の印刷がうまくできない」
- 「共有フォルダにアクセスできなくなった」
といった、解消は必要だがリアルタイムの解決は求められていない問い合わせが多いのです。
このような前提があるからこそ、チャットやWebフォームを使って、すぐに返事がなくてもやりとりが進められる柔軟な対応でも、十分に役立つサービスを提供できるのだと確信しました。
4. その話をしたところ、最初の一言に戻った
このような仕組みを他のコンサルタントに話したとき、冒頭の「それは無理だよ」という反応が返ってきました。
ただ、私はそれはコンサルタント側が慎重になりすぎている結果ではないかと感じています。お客様の可能性を信じる視点も必要ではないでしょうか。
5. お客様は“できない”のではなく、“知らないだけ”
「ITは苦手です」とおっしゃるお客様の多くは、やり方を知らない・情報の集め方がわからないだけなのです。
実際に、適切な手順と説明を用意し、テンプレートや選択肢を提示すると──ほとんどのお客様が問題なく使いこなせるようになります。これは、これまで私が支援してきた多くの企業で実際に見られた成果でもあります。
5.5 中小企業に必要なITサポートは、この3つに分けられる
お客様から寄せられる相談は多岐にわたりますが、支援の現場で体系的に見ると、3つの種類に整理できます。
(1)突発的な技術トラブルへの初動対応(障害時の一次対応)
たとえば、
- ネットがつながらない
- アプリが急に起動しなくなった
- 印刷ができない
といった、突然発生した不具合や障害に対して、「何が起きているのか」「どこまで自力で対応可能か」を切り分け、早期に回避策を講じる支援が求められます。しかし、これらのことは現場で解決する必要があり、社内で解決せざるを得ないことが多いです。支援をする立場としては、事象の切り分けやその後の相談先等を共有することになります。
(2)日常的なIT利用に関する運用サポート
日々の業務の中で生まれる、
- Excelの設定がうまくいかない
- Googleカレンダーの共有設定を変更したい
- アカウントの追加手続きがわからない
などの軽微だけれど、誰に聞けばいいか困ることを支援します。ITに関するちょっとした“社内の相談窓口”として機能します。
(3)将来に向けたIT環境整備・企画相談
- 新しい販売管理システムを入れるべきか?
- 社内サーバーをクラウドに移行すべきか?
- ベンダーとどう交渉すればいいか?
こうした将来の投資判断や構想段階の相談にも、第三者として関わる場面が増えています。この領域では、経営とITをつなぐ橋渡し役が重要になります。まさに中小企業診断士やITコーディネータに求められることです。
これらの3つのことを、社内で解決できないときに支援します。1はトラブル発生時にリアルタイムで対応が必要となりますが、2と3は時間的な調整が可能で、オンライン会議でも対応可能なことになります。
6. お客様が安心して相談できる、3段階の仕組み
こうした幅広い支援を、効率的かつ丁寧に提供するために、私は次の3段階の仕組みを整えています。
チャットでの相談テンプレート
「どう書けばいいか分からない」という声に応え、事前に形式を整備。質問の分類や必要事項をガイドすることで、誰でも簡単に入力できます。
(2)選択式Webフォーム
文章入力が難しい方には、選択肢やYes/Noで答えられるフォームを用意。回答内容はそのまま集計され、後の分析にも活用できます。
(3)どうしても難しいときは、オンライン会議や電話でフォロー
「もうお手上げ!」となったときには、画面を見ながら一緒に解決する体制を整えています。非リアルタイムを基本としながら、必要なときはすぐにつながれる安心感も大切にしています。
7. 老舗食品加工業の事例(千葉県/従業員28名)
ある食品加工会社では、製造現場での設備不具合がたびたび発生していました。しかし、現場では「どうやって報告すればいいのか分からない」まま、口頭やメモで済ませてしまい、対応が遅れてしまうという課題を抱えていました。
IT担当者は不在で、技術的なトラブルの把握と判断が属人的。そこで以下のような仕組みを導入しました:
- チャットテンプレで報告内容を形式化(どの機械で/何が起きたか/何時ごろ)
- 重要な報告は自動的に社長と責任者へ通知
結果、導入から2ヶ月で:
- 対応漏れゼロ
- 報告件数が月1件 → 月10件に
- 軽微な不具合も事前に把握され、生産停止のリスクが大幅に減少
社長は「今まで黙っていた“現場の小さな困りごと”が見えるようになった」と実感を語ってくださいました。
8. お客様が自走できるよう、仕組みと導線を整えることから始めよう
中小企業のお客様にとって、もはやITは避けて通れない経営課題です。ですがそれは、必ずしも専門人材や高額なシステムを意味しません。必要なことは、知識をキャッチアップできる導線と、何かあっても専門家に相談できる安心感を提供すること。仕組みで支えれば、人は必ず“できる側”へ変わっていきます。
だから私は、これからも「お客様を子供扱いせず、自走できる仕組みを共に育てていく」そんなコンサルティングを続けていきたいと思います。
